銀行の危機は、経済をさらに悪化させた。
雇用の停滞は、特に若年労働者の技能を低下させ、長期的に労働生産性大胆な金融緩和によって物価の下落期待を反転させれば、資産価値が上昇するので、不良債権は減少する。
必要なのは、物価の下落期待を反転させるために、お札を刷ることだけで入る。
インフレ。
ターゲット政策も必要。
ここで、当然の疑問が生じる。
国債の買い切りオペを増額するだけで、これまでに失った700兆円をとりもどせるとすれば、なぜ、そんな簡単なことをしないのかということである。
以下、考えられる反論をひとつずつ検討していきたい。
第1は、90年代の低成長は日本が構造改革に遅れたためで、デフレから脱却しても実体経済は回復しないという反論である。
しかし、どんな構造改革をすれば成長を回復できるのかは説明できない。
あるエコノミストが、自民党の有力代議士から、「それでは、あなたのいう構造改革とはいったいなんなのか」と問われて、なにも答えられなかったという話が有名ある。
なお、日本の労働組合は強力とは思えないので、物価下落期待が反転して上昇期待に転ずるさいに、労働組合と力ずくで対決する必要があるとは考えられない。
N銀行が、なるべく公平な形で資産を買うことである。
まずは国債の買い切りオペの増額90年代の低成長を説明する議論としての構造改革説が無内容であることは、すでに述べたとおりである。
構造的非効率は、90年代ではなくて、の示すことによって70年代からのことである。
構造問題で経済の効率性が徐々に蝕まれ、いつの間にか成長率が低下するような現象を説明できても、91年を境に、それ以前の3%成長から1挙に1%成長になってしまうような現象を説明できるはずがない。
現に、いかなるエコノミストも、どの構造問題が低成長をもたらしたのかを具体的に説明できたことはない。
第二の反論は、いくら国債の買い切りオペを増やしても物価は上がらず、上がりだしたらとまらないという反論である。
しかし、上がりだしたらとまらないのなら、買い切りオペの増大で物価は上がるだろう。
世界にはインフレ率がゼロ%の国と10%以上の国しかないのなら、上がりだしたらとまらないという主張を信じてもよいが、マイナスインフレ率の日本から5%までのあいだに多くの国がひしめいている。
日本を除く先進工業国の大部分が、2%前後のインフレ率である。
すなわち、インフレ率を2%に上げて、そのままにしておくことは可能だということである。
昭和恐慌時、金融政策の転換を求めるI(東洋経済新報社主筆)も、たびたびインフレーション(ここでいっているのは、デフレから脱却する過程でのリフレーションである)、筆萱を始めれば、止処がなきに到ろうなどと言ふ者は、思索全く足らざるものである」と書いている。
「インフレ率はある一定期間にわたるマネーサプライの水準をコントロールすることによって対処できる経済問題である」ことが、近年の「マクロ経済学の進歩と金融政策」の結論であると証言している。
これが世界の経済学の結論であるのに、どうしてそれを日本が受け入れないのか不思議である。
第三の反論は、デフレは構造的なもので、デフレからの脱却をもたらす手段がないというものである。
金利はすでにゼロとなっており、金融政策を発動する余地はないという反論である。
しかし、金利がゼロでも金融政策は発動できる。
金融政策のもっとも基本的な手段は、すでに何度も述べているように、マーケット・オペレーションである。
すなわち、中央銀行が市場で債券を購入することである。
短期の国債は、金利がゼロで、貨幣と同じようなものになっているというのであれば、中期・長期の国債を購入すればよい。
幸か不幸か、日本は700兆円の国債、地方債がある。
それを全部買い切って、途中でインフレにならないということがあるだろうか。
もしならないのであれば、いっこうにかまわない。
N銀行が買い切った額だけの通貨発行益が財政収入として得られるわけだから、それだけで財政再建ができてしまうことになる。
それでもインフレにならないのなら、税金を徴収することをやめて、財政支出をすべて通貨発行益でまかなえばよい。
日本は無税国家になれる。
それでもデフレから脱却できないのであれば、N銀行が通貨を発行して新たに国債を購入し、政府が得た国債発行収入を外貨に替えて世界中の資産を買えばよい。
バブルの夢よ、もう1度、日本は世界に、日本が買えないものはないということを示すことができる。
もちろん、こんな都合のよい話はない。
途中で必ずデフレから脱却することができ、うかうかしていればインフレーションになってしまう。
だからこそ、インフレ・ターゲット政策が必要なのである。
インフレ・ターゲット政策とは、物価が上昇したときにはN銀行が金融を引き締めることをあらかじめ宣言することによって、経済の混乱を最小限に抑え、引き締めへの転換を政治的に容易にする政策でもある。
要するに、インフレ率が2%前後になった時点で、買い切りオペの金額を減額すればよいだけのことである。
デフレを終わらせたくない人たちがいる。
さて、N銀行が市場で国債を購入するだけでデフレが終わるなら、なぜデフレを終わらせないのだろうか。
私の解釈は、デフレで不況にしておくことは、あるグループの人びとにとっては当面損失がなく、かつ、デフレを終わらせることは、あるグループの人びとには大きな危険があるからだ、というものである。
一言でいえば、デフレを終わらすことこそが真実の構造改革をもたらすのだが、そのような構造改革への抵抗勢力がデフレを終わらすことに反対しているのである。
90年代の実質成長率は、いままでのトレンドよりも2%低下したが、もしGDP統計というものがなければ、この低下をなかなか認識できない人が多数いるだろう。
成長するとは、すべての人びとの所得が1様に高まることではない。
特定の人びとの所得が高まって(あるいは低下さえして)、平均で所得が高まるということである。
デフレで平均的に実質所得が低下しても、特定の人びとの実質所得は高まっていることはある。
では、だれがデフレで利益を得るかといえば、規制、制度、慣行によって、その所得が固定的な人びとである。
ほかの人びとの生産物の価格やその所得が自由競争のなかで低下するとき、所得が固定的な人びとは利益を得ることができる。
そのような人びとはだれかといえば、公務員、規制産業(銀行、電力、新聞、放送、医療、大学など)で働く人びと、年金生活者などである。
膨大な不良債権をつくった銀行業では、さすがに利得を得ることはできなかったが、不良債権をもっていないN銀行などは利得を得ることができただろう。
N銀行が98年に政府から独立するまで、金融政策はN銀行と大蔵省の共同責任だった。
にもかかわらず、N銀行は金融政策の失敗によって大蔵省を中心とした政府から独立を得ることができ、大蔵省は銀行行政の失敗の責任をとらされて名前を奪われた(大蔵省というものものしい名前から、財務省という実務的な名前への改名を余儀なくされ、金融監督は大蔵省内の組織から離れ、金融庁が成立した)。
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